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岡山地方裁判所 昭和37年(行)1号 判決 1964年6月24日

原告 岩崎健児

被告 岡山県知事

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、被告が昭和三六年一〇月三〇日附で別紙目録第二記載の土地について児島市長中塚元太郎に対してした売渡処分が無効であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。との判決を求め、その請求原因として、

一、原告は、もと別紙目録第一記載の四筆の土地を所有していたところ、昭和二二年一〇月二日自作農創設特別措置法(以下自創法と略称する。)第三〇条によりその地上立木黒松一八一八石とともに国に買収された。

二、右土地は、その後分筆され、同目録第二記載の四筆の土地(以下第二土地と略称する。)は、その一部である。

三、ところが、国は、買収土地の約五五パーセントに当る第二土地を含む一三町三反五畝九歩については売渡しを保留し、農林大臣が農地法第七八条第一項により管理していた。

四、そこで、原告は、昭和三六年九月二七日その売渡し方請願書を被告に提出したところ、被告は、同年一〇月七日入植者の附帯地として利用する計画があるとして拒絶するとともに、同月三〇日附で売渡し保留地の内第二土地外一筆を、農地法第六一条により採草地として児島市長中塚元太郎に売渡している。

五、右売渡処分は、次の理由により無効である。

(一)  本件第二土地は、すべて保安林で、魚族資源のはん殖保護を目的とし、傾斜度・土質・位置からして不毛地であり、開発不適地である。従つて、買収そのものが不当であるところこれを多年の間漫然管理した上売渡す(実質は観光保養地としてのものと認められる。)ことは農地法本来の目的に反し憲法第二九条の精神にも合致しない。農地法第八〇条の認定をして、旧所有者たる原告に返還すべきものである。

(二)  仮に、本件売渡につき農地法第八〇条の認定がなされていたとしても、前所有者たる原告に対し通知すべきであるのに拘わらず通知していないことは、原告の優先買収権を侵害するものであり、農地法施行令第一七条に違反する。

六、そこで本訴に及ぶ。

と述べた。

(証拠省略)

被告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、答弁として、

一、原告主張事実中一、四及び五のうち原告に通知しなかつたとの点は認めるが、二は知らない。原告からの買収地のうち農林大臣の管理している部分は、現在は一反のみである。

二、本件売渡処分が無効であるとの主張は争う。本件土地の一部は耕作可能で、他は採草地として適当であり、開拓農民にその買受け及び管理能力がないところから、児島市に採草地として農地法第六一条により売渡したもので、農地法の趣旨に反するものではない。原告の主張は、本件土地が同法第八〇条の認定対象になることを前提としたものであるから、失当である。

と述べた。

(証拠省略)

理由

一、請求原因一事実(原告所有の別紙目録第一記載土地の自創法による買収)は当事者間に争いがなく、成立に争いがない甲第一、二号証の各一ないし四に弁論の全趣旨を綜合すると、同二事実(右土地の同目録第二記載土地への分筆)が認められる。

二、請求原因四事実中第二土地外一筆の売渡処分(売渡の相手方は児島市というのが正確と考えられる。)の存在は、当事者間に争いがない。

三、そこで、右売渡処分の効力につき判断する。

成立に争のない甲第一号証の一ないし四及び証人山田幸夫、那須信幸、那須巖、吉沢鉄夫、大前嘉門の各証言に検証の結果を綜合すると、第一土地とは、児島市久須美鼻の東南端約一粁の瀬戸内海に浮ぶ釜島という小島のことであるが、第二土地は、右島の周辺地区の大部を形成して、一帯に四〇年ないし五〇年生の松が群生し、その内側地区には農地が存在し、一六世帯が農業に従事していること、第二土地の地質は大体礫土で、二、四六〇番の二の東部に約二反六畝の開墾地があるほかは、前記のとおり松その他の灌木林となつて急傾斜の部分もあり、これら山林は、開墾可能と認められる箇所が多少ないでもないが、全体的に見れば、魚つき保安林として明治時代から伐採を禁止されていることの結果、内部にある農地にとつて主として防風林の役目を果し、又立木の落葉等が燃料及び肥料として耕作者の用に供されていること、以上の状況は、本件売渡処分当時と大差がないこと等が認められる。この認定を動かすに足りる証拠は存しない。

右認定によれば、第二土地は、その内側にある農地の利用上防風林として必要な土地であるということはできるが、農地法第二条第一項にいう採草地とは認め難い。

ところで、被告は、右土地を採草地と認定して児島市に売り渡しているのであるから本件売渡処分は、この点において瑕疵があるものと云い得るけれども、原告主張のように、第二土地が、農業上の利用の増進の目的に供しないことを相当とする農地法第八〇条第一項該当地であるとまで云うことはできない。

従つて、前記瑕疵は、本件売渡処分を無効ならしめる程重大かつ明白なものとは云い得ず、又右売渡の真の目的が第二土地を観光保養地として利用することにあつたとの原告主張事実を認めるに足りる証拠も存しないから、右売渡処分を無効とする原告の主張五、(一)は、理由がない。

四、原告の主張五、(二)は、第二土地につき農地法第八〇条第一項の認定がなされたことを前提とするが、右認定がなされていないことは、証人吉沢鉄夫の証言により明らかであるから、同主張も理由がない。

五、よつて、原告の本訴請求は、失当として棄却するものとし、民事訴訟法第八九条を適用の上、主文のとおり判決する。

(裁判官 辻川利正 宍戸清七 木原幹郎)

(別紙)

目録

第一、

岡山県児島郡下津井町大字下津井字釜島

二四六〇番   山林 一〇町五反八畝二〇歩

同所 二四六〇番の一 山林  五町一反九畝二三歩

同所 二五三〇番   原野    一反一畝二二歩

同所 二五一〇番   山林  六町九反三畝一六歩

第二、

岡山県児島市大字下津井字釜島

二五一〇番の九  山林 三町九反   六歩

同所 二四六〇番の五四 山林   五反五畝一二歩

同所 二四六〇番の五五 山林 三町八反八畝九歩

同所 二四六〇番の二  山林 三町四反九畝

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